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広島高等裁判所岡山支部 昭和53年(う)82号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人三宅為一名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

論旨は、先ず、被告人がカモに向けて猟銃を発射した地点は、公道から外れた場所であつて、原判示のように被告人が公道上で銃猟をした事実はないのに、これありとして被告人の有罪を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。

よつて記録を精査し、当審における事実調の結果をも参酌して検討するに、原判示の事実はこれを認めることができ、原判決には何ら所論のような事実の誤認は存しない。

被告人が原判示の日時に、原判示の場所附近で、カモを狙つて猟銃を発射したこと自体は、被告人も終始認めている事実であり、又被告人は本件直後取調に当つた警察官に対しては公道上から発砲したことを認め、実況見分の際にも発砲場所として公道である大和村林道信喜線上の地点を指示し、五ヶ月後検察官の取調を受けた時にも実況見分調書記載の場所で発砲したことは間違いないと述べているのに、原審及び当審公判廷においては、発砲した場所は公道西側の平地であつたと主張するに至つているのであるが、実況見分調書によれば、当時被告人が発砲場所として指示した地点は、江の川にかかる都賀行大橋西詰から前記林道を約三七メートル北に行つたところで、仮に右指示が完全に正確ではなかつたとしても、実際の発砲場所が都賀行大橋西詰から北方数十メートルの範囲内であることは疑問の余地がなく、右林道は南から北に向つて流れる江の川の西岸に沿つて平行している道路で、その附近一帯では道路の西側に勾配約八〇度の切り立つた崖がつらなり、道路と崖との間には被告人が主張するような平地はないことが明らかである。

被告人は、警察官の誘導等により、各捜査官に対し公道上から発砲した事実を迎合的に認めたものである旨主張するのであるが、被告人がいうように公道外の平地から発砲したことが事実であるならば、当初そのような平地がある場所まで警察官を同行して実際に発砲した地点を指示することができ、何らこれを妨げるような事情はなかつたのに、被告人はそれを試みず、その理由についても合理的な説明ができず、単に実際の発砲場所は検証の時指示させられた場所よりも北であると弁解するに過ぎないのであつて、被告人の捜査官に対する各自供は任意になされたものというべきである。

論旨は検証の際、被告人が指示した現場から薬莢が発見されなかつたことを指摘するが、前記林道の幅員は約三・七メートルで、両側が崖となつていること等を考えると、発砲地点から一旦飛び散つた薬莢が現場で発見されなかつたとしても、格別前記認定を妨げる理由とはならない。

結局原判決がその掲げる証拠にもとづいて原判示の事実を認定したのは正当な判断であつて、事実の誤認はなく、論旨は理由がない。

論旨は、次に、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書はその任意性に疑があり、又その内容は信用し難いものであるにも拘らず、原審がこれを証拠として採用取調べた上、有罪の証拠としたことは、訴訟手続に法令の違反があつて、判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。

よつて検討するに、右各供述調書の任意性、信用性を肯認し得ることは、先に述べたとおり明らかであるばかりか、原判決が有罪の証拠として掲げる被告人の検察官に対する供述調書二通は、原審において被告人が証拠とすることに同意した書面であつて、論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法三九六条に則り本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき同法一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

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